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COLUMN
2026.07.21

【シリーズ:「共創」という楽器の鳴らし方 Vol.8】企業サステナビリティ担当者と共振する10のチューニング・ガイド:⑧課題解決に向けたシステム思考力

立場や組織の垣根を超えて「共創」を進めたいと願っても、組織を代表する以上、私たちはそれぞれの論理や限界という「硬い壁」に直面します。 しかし、この壁の中で孤独に戦う必要はありません。「熱意やナレッジの交換」というつながりの力でその壁を「響かせる」ことができれば、挑戦と応援のエコシステムはより豊かになっていくはずです。

今回、こうした「壁を響かせる実践知」を皆様とシェアする新連載【シリーズ:「共創」という楽器の鳴らし方】を企画しました。これは一方通行の情報発信ではありません。受け取った皆様からの現場のリアルな「アンサー(知見)」を募集し、次の連載者へとバトンをつなぐ「知のペイフォワード・リレー」を目指します。

本連載のトップバッターとして新aBCフェローの金田晃一さんを迎え、現職のNTTデータグループのほか、ソニーや武田薬品工業など5社・26年にわたる実践知から、企業担当者とNGOが「共振」するための10の作法(チューニング・ガイド)を紐解きます。

第8回のテーマは、NGO担当者に求められる「課題解決に向けたシステム思考力」について。武田薬品工業と日本NPOセンターとの東日本大震災復興支援における協働経験から紐解きます。

【筆者略歴】金田 晃一さん(多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員/aBCフェロー)

ソニー渉外部通商政策課、在京米国大使館経済部通商政策担当、ブルームバーグテレビジョン・アナウンサーを経て、1999 年以降、ソニー(再入社)、大和証券グループ本社、武田薬品工業、ANAホールディングス、NTT データグループの5 社にてサステナビリティ経営を推進。日本経団連・社会貢献担当者懇談会座長、日本NPO センター理事、現在は、国際協力NGO センター(JANIC)理事、日本ソーシャル・イノベーション学会理事、多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員を務める。and Beyondカンパニーの1号フェロー。

支援金額と支援期間

2011年3月11日に発生した東日本大震災に対し、武田薬品工業は10年間にわたる「日本を元気に・復興支援」プロジェクトを立ち上げ、NGO/NPOとの協働を通じて、32億円規模の包括的な復興支援事業を実践した。緊急期の義援金、復旧期の支援金、そして、この復興期のプロジェクトを合わせると支援総額は43億円にのぼる[1]

発災直後、社内には「このような時こそ被災地のために何かしたい」という空気が溢れていた。未曾有の災害を前にすれば、どの企業も同様に考えることは想像に難くないが、いのちを救う医薬品を生業とし、創業から230年もの間、幾多の自然災害を自ら乗り越え、また、社会支援をしてきた製薬企業には相応の緊迫感があった[2]。当時の社長はこれを汲み取り、「当社が『すべきこと』を提言してほしい」と全役員・社員にメッセージを送った。その結果、「アリナミン類の収益の一部を複数年にわたり拠出する」という寄付金枠に関する大胆な発案が現実のものとなった。

並行して、CSV/CSR/企業市民活動を担当するコーポレート・コミュニケーション(CC)部では、期間の問題、すなわち、「災害支援は熱しやすく冷めやすい」というこれまでの日本企業の傾向についても議論を始めていた。時間の経過とともに課題が複層化して、その解決が困難になる復興期において、いかに被災地への関心と支援を持続させるかという問題であった。これは、私自身2000年より、メンバー/座長として関わってきた経団連の社会貢献担当者懇談会(現在の1%クラブ)でも、阪神・淡路大震災、中越地震など、発災のたびに指摘されてきた。政府は2011年7月に「東日本大震災からの復興の基本方針」において「復興には10年を要する」という公式見解を示した[3]。これを受けて、CC部は10年間の支援プロジェクトを構想した。このようにして、支援金額の大枠と支援期間のアイデアが固まった。

支援フレーム

私は、会議室にCC部のメンバーを集め、支援の基本となる枠組みをホワイトボードに描いて共有した。それが縦軸に経営資源(カネ、モノ、ヒト、情報など)、横軸に支援ステージ(緊急期、復旧期、復興期)を配した以下の4×3のマトリクス表である[4]

この枠組みをベースに、その時々の社内外の状況を踏まえながら「各マスに何を入れるか」を議論しながら着実に実行した。緊急期からの具体的な支援活動の経過は以下の通りである。

①緊急期
災害義援金として、3億円を日本赤十字社に寄付するとともに、日本製薬工業協会および日本OTC医薬品協会との協議の上、医療用医薬品および一般用医薬品の提供を実施した。この他、海外関係会社からも、各国の赤十字などを通じて、総額約1億円(当時の日本円換算)の寄付金を供出した。

②復旧期
武田薬品労働組合と連携し、従業員からの募金に会社がマッチング(同額上乗せ)する形で、認定NPO法人ジャパン・プラットフォームに約7,600万円を寄付した。また、「被災地でボランティア活動に参加したい」との従業員の声を受けて、「特別有給休暇の付与」「ボランティア保険の保険料負担」など、従業員の自発的なボランティア活動をサポートする制度を整えた。

③復興期
一般用医薬品のアリナミン類の収益の一部を原資に「日本を元気に・復興支援」プロジェクトを実施した。支援の概要をまとめたものが以下の表(内閣府レポートからの抜粋[5])であるが、その中に、2011年10月に日本NPOセンターをパートナーとして実施した12億円規模の旗艦的な自主プログラム「タケダ・いのちとくらし再生プログラム」がある。この他、表には記載されていないが、風評被害によって大きな被害を受けている被災地の消費回復を支援するため、東北・関東地方の特産品を従業員向けに販売する「企業内マルシェ」を継続的に開催した。

システム思考に基づく「自主連携事業」の提案

このようにCC部としても10年間の長期支援のブループリントを構想する中で、緊急期や復旧期に日本赤十字やジャパン・プラットフォームなどが主体的に実施するプログラムを義援金や助成金で側面から支えるアプローチとは別に、復興期には、武田薬品工業が自身の考え方で実施する旗艦的な自主プログラムも必要という判断のもと、日本NPOセンターに協働パートナーの打診をした。議論の末、「助成事業」枠と「自主連携事業」枠で構成される復興支援案を策定して取締役会に諮り、承認された。このような経緯から、2011年10月より「タケダ・いのちとくらし再生プログラム」がスタートした。

「助成事業」とは、助成を受けたNPOが被災者の課題解決に直接取り組む事業であり、「自主連携事業」とは、日本NPOセンターがパートナーとなるNPOを探して自主的に連携し、NPOによる支援事業をより円滑に進めるために必要な様々な基盤の創出・強化を目指す事業である。「助成事業」は「被災者課題」に取り組み、「自主連携事業」は、より円滑な復興を目指す際に解決すべき「社会課題」を扱う。

この「自主連携事業」枠の設定は日本NPOセンターの発案であり、CC部に対する初回の実施提案の段階で「どの団体をパートナーとして、どのような支援インフラを作りたいか」についても既に具体的なイメージが示されていた。発災直後の混乱のさなかにあって、システム思考に基づいて災害復興に向けたインフラ整備の必要性を認識し、それを実現するための「自主連携事業」枠を構想する。経験豊かな中間支援NPOの慧眼の賜物であろう。

具体的には、「自主連携事業」枠を活用して、以下の9事業に3.3億円が活用された。

事業名:被災地支援に取り組む団体間のネットワークと情報受発信事業
団体名:東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)
事業名:東日本大震災における民間支援の軌跡と動向調査
団体名:日本NPO学会
事業名:震災遺族への総合支援事業
団体名:自殺対策支援センターライフリンク
事業名:東北3県における被災障がい者支援及びそこから波及するサービスの創造と地域ネットワークづくり
団体名:被災地障がい者センター
事業名:被災地支援制度の内容と活用方法の情報提供活動および、被災地支援制度の改善を政府に提案する活動
団体名:シーズ・市民活動を支える制度をつくる会
事業名:東日本大震災における支援団体のメンタルケア事業
団体名:日本YMCA同盟
事業名:東日本大震災被災3県の沿岸NPO支援組織のネットワーク化事業
団体名:アットマークリアスNPOサポートセンター
事業名:全国の「避難当事者の経験」を語り分かちあう場づくり及び当事者支援団体及び関連する支援団体とのネットワーク強化促進事業
団体名:311当事者ネットワークHIRAETH(ヒラエス)
事業名:東日本大震災以降の被災者支援制度の課題の明確化と提案事業
団体名:3.11から未来の災害復興制度を提案する会

これら9事業は事業上の性質から、①「支援者ネットワーキング」、②「支援者支援」、③「支援動向調査」、④「支援政策提言」の4つに分類できる[6]

このような構造上の整理を通じて、「自主連携事業」とは災害に強い社会基盤を築くことで「助成事業」の有効性・効率性・持続性を高めるための長期投資であったことを改めて認識した。

 

(参考)社会貢献活動に関するNPO/NGOとの協働プログラム

企業側から見たNPO/NGOとの協働には以下に示す通り、3つのアプローチがある。「日本を元気に・復興支援」プロジェクトの下で実施された各種プログラムを当てはめてみると以下のように分類される。

①企業の自主プログラムの実施
企業が主体性を持って企画・実施するプログラム。NPOは企画のアドバイス、事務局運営、現場の活動、活動評価、最終報告書作りなどを担当する。
→日本NPOセンターとの「タケダ・いのちとくらし再生プログラム」、中央共同募金会との「タケダ・赤い羽根広域避難者支援プログラム」など。

②NPO/NGOが実施中のプログラムへの側面支援
NPO/NGOが実施している既存のプログラムに共感し、企業が寄付やボランティア等で側面支援する。
→緊急期における日本赤十字への寄付、復旧期におけるジャパン・プラットフォームへの寄付、復興期における日本再建イニシアティブへの寄付など。

③NPO/NGOの組織基盤強化プログラムへの支援
NPO/NGO職員の人件費・社会保障費やウェブサイト構築に向けた支援のほか、新団体の設立に向けて費用や人的支援をする。
→米日カウンシル・ジャパン[7]や全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)[8]の設立費用支援など。

(出典)筆者提供資料をもとに経団連事務局が加工・修正したもの[9]

 

今回の問い

NGO/NPOが持つ「課題解決に向けたシステム思考力」について、企業のサステナビリティ担当者として特に頼りになった場面や、逆にもっと引き出せたのではと感じた場面はどのようなときだろうか。

いかがでしたでしょうか。金田さんは今回、NGOの「システム思考力」の重要性について論じていますが、さて、翻って、企業側にも中長期の視点で支援の枠組みを設計する力が問われるのではないでしょうか。皆さんの現場の声をぜひお聞かせください。

本連載は、皆様からの「声」で完成します。「自分たちの現場ではこうしている」「逆に企業にこうしてほしい」 そんな皆様のアンサー(知見)をぜひお寄せください。

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参考文献・注:[1] 武田薬品工業ウェブサイト参照 こちら

[2] ソニーのコミュニティ・リレーション室在籍時には、阪神淡路大震災の後期復興支援として仮設住宅コミュニティ向けのイベント開催に関わり、ジャパン・プラットフォームという公益的なインフラの立ち上げにフル・コミットした。大和証券グループ本社のCSR室在籍時には、公益信託のスキームを活用したスマトラ地震・インド洋津波の10年支援を立ち上げた。武田薬品工業では、まず医薬品のロジスティックス体制の構築から取り掛かった。このような実体験から、産業特性、独自の企業文化や背景、経済界や業界におけるポジションが災害時におけるアクションに影響すると考える。

[3] 復興庁ウェブサイト「東日本大震災の教訓継承サイト」参照 こちら

[4] 社会貢献によるビジネス・イノベーション「CSR」を超えて(2012)丸善出版社 第3章 ビジネスと社会貢献の近接と統合(金田)P.76‐77参照

[5] 内閣府レポート(PDF)

[6] 日本NPOセンターのウェブサイト情報を参考に筆者が整理した。 こちら

[7] 武田薬品工業はファウンディングパートナーとして記載されている。 こちら

[8] 武田薬品工業は、設立パートナーとして記載されている。 こちら

[9] 経団連企業行動憲章 実行の手引き(第9版) 第8章(P.133)を参照。 こちら

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