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インタビュー
2025.09.10

【共創インタビュー:vol.1】島を動かす共創の12年

島を動かす共創の12年――洲本・域学連携の現在地

洲本市役所高橋さんインタビュー

企業の垣根を越えて社会課題に挑むプラットフォーム「aBC(アンドビヨンドカンパニー)」。aBCが主催する年1回のカンファレンス「beyondカンファレンス」に参加をされた、洲本市役所高橋さんのインタビューです。


瀬戸内海に浮かぶ淡路島。この島の中心地であり、島内外の人・もの・情報が集まる「洲本市」。洲本市では、2013年度から「共創」の取り組みを行っています。具体的には、いくつもの大学と連携(域学連携)し、住民やNPO等とともに地域の課題解決や地域づくりといった取り組みをしています。
今回は、洲本市役所において域学連携を担当している高橋さんに、洲本市での「共創」の取り組みを伺いました。

 


25年の行政経験といまの担当領域

 

──本日はお時間をいただき、ありがとうございます。まずは自己紹介をお願いします。

高橋:洲本市役所企画課の高橋です。地元洲本市出身で実家は農業を営んでいます。洲本市役所に入庁して25年、最初は農業振興の仕事を十数年担当し、農村の活性化に向けた取り組みに携わってきました。具体的には、再生可能エネルギーの導入や域学連携などの事業を推進していました。
その後、現在の企画課に異動となり、引き続き再生可能エネルギーや域学連携を担当しています。

 


再エネから始まった共創——域学連携の起点

 

──域学連携はまさに「共創」活動ですが、この活動を始めたきっかけを教えてください

高橋:洲本市では、少子高齢化が進み、若い世代が高校卒業を機に島を出てしまうことから、地域振興に関わってくれる人材不足が悩みとなっていました。そこで、外部の大学と連携して一緒に地域振興に取り組もうということになりました。
大きなきっかけは、2013年度に総務省が域学連携に取り組む地方自治体を対象に補助金を交付することになり、再生可能エネルギー事業の関係でご縁のあった龍谷大学と一緒に応募したことです。採択されたことで、1年目から域学連携を本格的にスタートすることができました。
今まで(2025年度以前)に、56大学・約1400名の学生が、この域学連携の活動に参加してくれています。

──域学連携を始めてから12年間経ちましたが、具体的にはどのような活動をしてきたのでしょうか

高橋:たとえば、再生可能エネルギーを活用した地域の活性化を行っています。洲本市と龍谷大学が連携し、地域貢献型メガソーラー発電所を設立し、売電で得られた利益は洲本市の活性化に向けて頑張っている団体に還元するという活動です。
また、最近の事例としては、市内にある空き家や空き店舗をリノベーションし、洲本市を訪れる学生への無料宿泊施設にするといった活動も行っています。現在は、大阪工業大学や木匠塾の学生が中心になってリノベーションに取り組んでいます。

 

──域学連携を行うことによって洲本市としてはどんなメリットが得られましたか

高橋:参加する学生が増えることで、学校卒業後も継続して洲本市の活性化に携わってくれる若い人が増えました。若い力で地域活性化を図りたいという思いがあるので、そういった意味でメリットといえるでしょう。
中には、卒業後洲本市に移住して、地域活性化により深く関わってくれる人もいます。

 

──域学連携を初めて行ったときにはいろいろとご苦労なさったのではないですか

高橋:そうですね、域学連携に関するノウハウがまったくなかったため、学生向けの教育プログラム作りには苦労しました。龍谷大学は早くからPBL(問題解決型学習)に取り組まれていたので、知恵を借りながら一緒にプログラム作りをしました。
実際に域学連携を円滑に進めるためには、大学と地域の方とのマッチングは欠かせません。学生と一緒に活動する地域には、面倒見が良く懐の深いリーダーが居ることを大事にしています。また、活動内容によってマッチング相手を考えます。このマッチングの良し悪しを正しく判断しないと、活動が円滑には進みません。
私の場合は、もともと農業振興の仕事をしていたこともあり、地域に出かけることも多かったので、洲本市内にどのようなリーダーが居るのか何となく把握できていました。そのため、大学と地域のマッチングは大きな苦労はありません。また、学生を受け入れる地域の方の理解もあったため、スムーズに運営できました。

 

──域学連携を推進していくことで高橋さん自身がよかったと思うことは何ですか

高橋:最初のうちは、すべて自分でやらないと気が済まなかったのですが、地域の人たちが慣れてくるにつれ、取り組み内容ごとに得意な人がいれば任せるようにやり方を変えていきました。つまり、私自身が最低限やらなければならないミッションは、大学と地域をつなげることであって、それ以外のことはいい意味で人に任せるというように変わってきました。このように考え方が変わったところがよかったと思います。

 

──域学連携を推進していくことで洲本市役所という組織として何かメリットはありましたか

高橋:認知度のアップや外部からの評価には一定程度つながったと思います。たとえば、文部科学省が令和7年度に新たに設置した地域大学振興に関する有識者会議の特別委員に委嘱され、大学による地域振興について地域側から意見を述べる機会を得ました。また、これまでに林野庁、総務省、環境省などから域学連携の活動に対する賞をいただいたりもしました。

 

──洲本市の域学連携は比較的うまく進んでいると伺いましたが、活動の中で特に難しかった点はどういったことでしょうか

高橋:先ほども少しふれましたが、地域貢献型メガソーラー発電所を設置するにあたっての地元合意形成ですね。この発電所は、市が所有している農業用ため池に浮かべて設置するタイプでした。
そのため、ため池周辺の住民や、ため池の水を農業用水として利用している農家の方に、龍谷大学の先生方とともに、丁寧に説明を重ねました。
施設の安全性や反射光のことなどいくつか指摘もいただき、これらに対応しながら、最終的には「地域貢献のために必要な施設」ということもあり、関係者の合意を得ることができました。

 

──域学連携を推進していくことで大学側にもメリットがあるとお考えですか

高橋:大学の3つの使命は、教育、研究、そして「社会貢献」です。社会貢献を行うにあたっては、実際に現場に出ていく実践型の教育がもっとも相応しいと考えています。そのため、洲本市との域学連携は大学側にとってもメリットがあるのではないでしょうか。
また、域学連携の活動を通して、大人との交流が深まることで、学生の成長にもよい影響を与えていると思います。

 


他自治体へのメッセージ——強い意思と課内合意、そして制度化

 

──域学連携のような「共創」に取り組みたいという他の地方自治体へ何かメッセージがあればお願いします

高橋:その取り組みを行うという強い意思を持つことが重要であると考えています。
あとは、自分がそういった取り組みを「面白い」と感じているか否かですね。「面白い」と思っていないのであれば、継続して取り組むことは難しいでしょう。
私の場合は、域学連携事業のために土日に出勤することも多いです。学生が土日に活動することが多いためです。そういうことを厭わない性格とか、家族の理解が必要と思います。
また、公務員は2~3年での異動が付き物です。それによって積み上げてきた域学連携のノウハウや知見がゼロベースにならないよう、所属部署での業務の言語化、マニュアル化は大事ですが、臨機応変でケースバイケースの対応が多い仕事なので苦戦しています。私の場合は、行政主導だけではなく、熱量の高い民間団体が主導する域学連携に移行しようとしています。それにより担当者の異動リスクを減らせればと考えています。

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