
立場や組織の垣根を超えて「共創」を進めたいと願っても、組織を代表する以上、私たちはそれぞれの論理や限界という「硬い壁」に直面します。 しかし、この壁の中で孤独に戦う必要はありません。「熱意やナレッジの交換」というつながりの力でその壁を「響かせる」ことができれば、挑戦と応援のエコシステムはより豊かになっていくはずです。
今回、こうした「壁を響かせる実践知」を皆様とシェアする新連載【シリーズ:「共創」という楽器の鳴らし方】を企画しました。これは一方通行の情報発信ではありません。受け取った皆様からの現場のリアルな「アンサー(知見)」を募集し、次の連載者へとバトンをつなぐ「知のペイフォワード・リレー」を目指します。
本連載のトップバッターとして新aBCフェローの金田晃一さんを迎え、現職のNTTデータグループのほか、ソニーや武田薬品工業など5社・26年にわたる実践知から、企業担当者とNGOが「共振」するための10の作法(チューニング・ガイド)を紐解きます。
第1回のテーマは、すべての共創の起点となる「人(プログラムオフィサー)」について。 まずは信頼のチューニングから始めましょう。
【筆者略歴】金田 晃一さん(多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員/aBCフェロー)
ソニー渉外部通商政策課、在京米国大使館経済部通商政策担当、ブルームバーグテレビジョン・アナウンサーを経て、1999 年以降、ソニー(再入社)、大和証券グループ本社、武田薬品工業、ANAホールディングス、NTT データグループの5 社にてサステナビリティ経営を推進。日本経団連・社会貢献担当者懇談会座長、日本NPO センター理事、現在は、国際協力NGO センター(JANIC)理事、日本ソーシャル・イノベーション学会理事、多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員を務める。and Beyondカンパニーの1号フェロー。
ソニーアジア基金とプログラムオフィサーへの深い安心感
1999年3月、ソニーはアジア地域における教育・文化の振興および青少年の健全な育成を目的に1,000万円を拠出して公益信託アジア・コミュニティ・トラスト(ACT)内に「ソニーアジア基金」を設置し、4年間にわたる支援活動を実施した[1]。
ACT事務局である日本国際交流センター(JCIE)との協議の結果、①良き企業市民”として行動するGood Corporate Citizenの観点と、②現地で操業するための資格を得るLicense to Operateの観点から、製造・販売拠点のあるフィリピンでは、教会内で実施されるオルタナティブ教育プログラムを、また、製造拠点のあるインドネシアでは、小中学生の復学プログラムを支援した[2]。どちらも、社会貢献活動の重点分野と定めていた教育関連のプログラムである。

オルタナティブ教育を実施するCCA(フィリピン)

支援先の学校(インドネシア)
現場での支援活動は、JCIEと提携し、フィリピンではクリスチャン・シティ・アカデミー(CCA)、インドネシアでは、社会生活向上財団が実施した。特に、フィリピンの場合、JCIEは、現地の中間支援NGOであるPBSP(Philippines Business for Social Progress)にACTデスクとしての業務を委託し、PBSPはCCAの活動支援にあたった[3]。
実際、フィリピンとインドネシアの支援現場を視察した際、JCIEのプログラムオフィサーは、プログラムの進捗状況、資金の使用状況を個別に確認するだけでなく、PBSPなどの中間支援NGO/現場NGOなどとのステークホルダーダイアログを開催し、周辺コミュニティからの評判、今後の計画などの確認作業を次々とこなした。
その姿を間近で見て、私はドナー企業の社員として、その専門性に深い安心感を覚えた。このような経験から、企業の社会貢献活動の成否は、NGOの組織力だけではなく、案件を担当するプログラムオフィサーという人間の力量に大きく依拠している現実を改めて実感した。

PBSPオフィス内部(フィリピン・マニラ市)
プログラムオフィサーが果たす役割の重要性
ここで「ソニーアジア基金」に携わる経緯について少し触れておきたい。
私は新卒でソニーに入社し、1992年から93年にかけて、奨学生としてレディング大学大学院経済学部修士課程で多国籍起業論を学んだ。これが契機となり、以降、「多国籍企業による途上国での人間開発」に関心を持った。留学から戻り、在京米国大使館経済部やブルームバーグテレビジョンのアナウンス室に転職したが、この間もプライベートの時間をフルに活用し、シャンティ国際ボランティア会が主催するタイでのボランティア活動への参加や、国際開発機構(FASID)などの研修機関が提供する開発学講座の受講を続けていた。
そのようなときに、ソニーの元上司からの誘いもあり、1999年5月にソニー渉外部社会貢献室に再入社した。そこで最初に手掛けた途上国での社会貢献プログラムが2か月前に設定されたばかりの「ソニーアジア基金」であった。JCIEとの連携を通じて、最も印象深かったことがプログラムオフィサーが果たす役割の重要性であった。
プログラムオフィサーとは、NGO、財団、国際機関、政府系機関などで、プログラムを企画・運営・評価する専門職のことを指す。主な機能を、PDCA+P(Proposal)、すなわち計画、実行、評価、改善+提言のスタイルで整理すると、以下のようになる。
サステナビリティ担当者も企業内のプログラムオフィサーである
最近、徐々にではあるが、企業自らが社会貢献プログラムを作成してNGOにアドバイスやプログラムの運営を委託する、いわゆる「自主プログラム」が日本国内でも見受けられるようになってきた。
その意味では、企業の社会貢献担当者も企業内のプログラムオフィサーと言っても過言ではない。
企業とNGOのパートナーシップの重要性が叫ばれる中、「社会価値の創出を前提とした上で同時に企業価値の創出もめざす」企業内の社会貢献プログラムオフィサーの専門性は、今後、注目される論点になるだろう。
今回の問い
NGOは、パートナーである企業の社会貢献担当者にどのような能力や資質を求めているだろうか。
いかがでしたでしょうか。 本連載は、皆様からの「声」で完成します。
「自分たちの現場ではこうしている」「逆に企業にこうしてほしい」 そんな皆様のアンサー(知見)をぜひお寄せください。
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参考文献:
[1] 特別基金一覧 | 公益信託 アジア・コミュニティ・トラスト
[3] ソニーの「人間開発」型アプローチ CBCC NEWS ステークホルダーズ NO.46 (2000 No.1) P.38-40