
立場や組織の垣根を超えて「共創」を進めたいと願っても、組織を代表する以上、私たちはそれぞれの論理や限界という「硬い壁」に直面します。 しかし、この壁の中で孤独に戦う必要はありません。「熱意やナレッジの交換」というつながりの力でその壁を「響かせる」ことができれば、挑戦と応援のエコシステムはより豊かになっていくはずです。
今回、こうした「壁を響かせる実践知」を皆様とシェアする新連載【シリーズ:「共創」という楽器の鳴らし方】を企画しました。これは一方通行の情報発信ではありません。受け取った皆様からの現場のリアルな「アンサー(知見)」を募集し、次の連載者へとバトンをつなぐ「知のペイフォワード・リレー」を目指します。
本連載のトップバッターとして新aBCフェローの金田晃一さんを迎え、現職のNTTデータグループのほか、ソニーや武田薬品工業など5社・26年にわたる実践知から、企業担当者とNGOが「共振」するための10の作法(チューニング・ガイド)を紐解きます。
第2回のテーマは、企業担当者に求められる「社会課題の解説力」について。 ジャパン・プラットフォームとの17年間の経験から紐解きます。
【筆者略歴】金田 晃一さん(多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員/aBCフェロー)
ソニー渉外部通商政策課、在京米国大使館経済部通商政策担当、ブルームバーグテレビジョン・アナウンサーを経て、1999 年以降、ソニー(再入社)、大和証券グループ本社、武田薬品工業、ANAホールディングス、NTT データグループの5 社にてサステナビリティ経営を推進。日本経団連・社会貢献担当者懇談会座長、日本NPO センター理事、現在は、国際協力NGO センター(JANIC)理事、日本ソーシャル・イノベーション学会理事、多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員を務める。and Beyondカンパニーの1号フェロー。
ジャパン・プラットフォームとの17年間
2000年8月、産(経団連・企業)・官(外務省)・民(NGO・個人)連携によって緊急人道支援団体ジャパン・プラットフォーム(JPF)が誕生した。JPFのウェブサイトによると、設立の背景には「1999年のコソボ紛争では、約85万人の難民が発生。世界各国のNGOは、難民キャンプを運営し、食料の配布、医療、衛生管理といった幅広い支援活動を展開したが、日本のNGOは当時、発生後に迅速な支援を単独で行うだけの財政的基盤がなく、また現場経験を積んだ人材も不足していた」ことがあった[1]。経団連からの声がけもあり、私は”0(レイ)の会”と呼ばれる設立準会合に参加した。ソニーは、富士ゼロックス、NECと並び、同団体の創設時の支援企業の1社として、事務局スタッフの人件費の一部を支援する他、被災地映像の録画・編集機器(450万円相当)を寄贈した。
“0(レイ)の会”ではJPF設立の趣旨を聞きながら、右脳は「ミレニアム・イヤーに起こりつつある「企業セクターによる人道分野へ関与」からくるワクワクする未踏感を得つつ、左脳を使って「経団連が一致団結して本気で協力体制を組むなら企業としては機材の提供などの支援も検討しやすいのではないか」などと発言していた[2]。その流れもあり、設立と同時に「企業アドバイザー」に就任、その後、所属企業を3回変えながらも17年間にわたり企業アドバイザーとしてJPFと同じ時を過ごした。
2007年にペルー地震が発生した際には1年後に被災地を訪問し、JPFを経由して加盟NGOに渡った企業寄付が現地でどのような形で活用されているか、また、被災地やその近隣で操業する日本企業は、発災直後、そして、復旧期にどのような行動をとってきたか、について確認する作業なども実施した。その時私が感じたJICAとJPFによる日本の支援の特徴は、その「キメコマヤカ」さだった[3]。

「人間の安全保障」に向けた実践知をペルー地震被災地で活用・展開するJPF
2026年1月、設立25周年イベントを祝うイベントが開催され、私も招待を受け参加したが、イベントの後半で祝辞を述べた際に、JPFの更なる発展を祈念して「中間支援NGOとしての機能強化」について短いプレゼンテーションをした。その中で、中間支援NGOの機能を以下の5つに整理した。
翻って、JPFの場合、①~⑤のそれぞれについて着々と機能強化を進めてきたが、⑤については、さらに、シンボリックなアクションがあってもよいと感じている。
民産官学連携で人道支援を徹底解説
そこで、⑤のアクションとして、JPFに蓄積された25年間の知見を、わかりやすく整理し、JPF自身が事務局としてオーナーシップを持つ形で、主として、企業人や学生向けに解説する「JPFユニバーシティ」の設立について検討してはどうかと提言した。
JPFはこれまで、政府、企業、個人から967億円を集め、世界65か国、2,400件の緊急人道支援プログラムに活用してきたが、これらの経験は、各種の報告書という形でデータ化されている。この25年間の経験・実績をAIも活用しながら、一定のフォーマットの下、シリーズで解説することで、JPFのさらなる知名度向上とJPFへの支援強化の両面に対して大きなインパクトが創られ、ゲスト講師に加盟NGOを招くことにより加盟NGOに対する社会からの信頼醸成が促進され、さらには、(自然災害に起因する人道上の問題と比較し)国家やグループ間の紛争に起因する人道上の問題に支援が集まりにくいという問題に向き合う機会が生まれるのではないかと感じている。
人道支援を取り巻く外部環境に目を向けると、2023年9月には、緊急人道支援学会が発足している。2024年2月には、東京大学駒場キャンパスにて第1回シンポジウムが開催された[4]。

近畿大学国際学部に事務局を置く緊急人道支援学会
この学会との連携も視野に入れ、「JPFユニバーシティ」の場合は、人道支援の「研究」ではなく「解説」に力点を置いた、例えば以下のようなシリーズ13回にわたるシラバスを用意し、企業人、学生を中心とした幅広いステークホルダーにアプローチしてはどうだろうか。
今回の問い
企業のサステナビリティ担当者が自社内で社会課題を「伝える力」「解説する力」を発揮できていると感じる点や場面、あるいは逆に不足していると感じる点や場面はどのようなときだろうか。
いかがでしたでしょうか。 金田さんは今回、中間支援NGOの情報発信・解説機能の重要性について論じていますが、さて、翻って、企業にも同じことが言えるのではないでしょうか。皆さんの現場の声をぜひお聞かせください。
本連載は、皆様からの「声」で完成します。「自分たちの現場ではこうしている」「逆に企業にこうしてほしい」 そんな皆様のアンサー(知見)をぜひお寄せください。
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参考文献:
[1] ジャパン・プラットフォームウェブサイトより。はじめての方へ|日本発の国際協力NGOジャパンプラットフォーム
[2] 「こころざしは国境を越えて」原田勝弘(2001.5) 日本経済新聞社 P.29からの引用
[3] 詳細は、ペルー地震被災者支援評価報告書(2009.2)P.9を参照