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2026.06.09

【シリーズ:「共創」という楽器の鳴らし方vol.7】企業サステナビリティ担当者と共振する10のチューニング・ガイド:⑦グローバルなネットワーク力

立場や組織の垣根を超えて「共創」を進めたいと願っても、組織を代表する以上、私たちはそれぞれの論理や限界という「硬い壁」に直面します。 しかし、この壁の中で孤独に戦う必要はありません。「熱意やナレッジの交換」というつながりの力でその壁を「響かせる」ことができれば、挑戦と応援のエコシステムはより豊かになっていくはずです。

今回、こうした「壁を響かせる実践知」を皆様とシェアする新連載【シリーズ:「共創」という楽器の鳴らし方】を企画しました。これは一方通行の情報発信ではありません。受け取った皆様からの現場のリアルな「アンサー(知見)」を募集し、次の連載者へとバトンをつなぐ「知のペイフォワード・リレー」を目指します。

本連載のトップバッターとして新aBCフェローの金田晃一さんを迎え、現職のNTTデータグループのほか、ソニーや武田薬品工業など5社・26年にわたる実践知から、企業担当者とNGOが「共振」するための10の作法(チューニング・ガイド)を紐解きます。

第7回のテーマは、NGO担当者に求められる「グローバルなネットワーク力」について。武田薬品工業とグローバルファンド・ATM財団との協働経験から紐解きます。

【筆者略歴】金田 晃一さん(多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員/aBCフェロー)

ソニー渉外部通商政策課、在京米国大使館経済部通商政策担当、ブルームバーグテレビジョン・アナウンサーを経て、1999 年以降、ソニー(再入社)、大和証券グループ本社、武田薬品工業、ANAホールディングス、NTT データグループの5 社にてサステナビリティ経営を推進。日本経団連・社会貢献担当者懇談会座長、日本NPO センター理事、現在は、国際協力NGO センター(JANIC)理事、日本ソーシャル・イノベーション学会理事、多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員を務める。and Beyondカンパニーの1号フェロー。

アフリカにおける企業市民活動の旗艦プログラム

2010年3月、武田薬品工業はアフリカの保健医療アクセス向上を目的に、年間1億円・10年間(総額10億円)を拠出する寄付プログラム「タケダ・イニシアティブ」を開始した。寄付先は、スイス・ジュネーブに本部を置く「エイズ・結核・マラリア対策世界基金(グローバルファンド)」であり、日常的なコミュニケーションはグローバルファンド日本委員会の運営主体である日本国際交流センター(JCIE)を通じて行った。寄付金は、グローバルファンドを通じて、タンザニア、ナイジェリア、セネガル(後にケニアに変更)の保健省や現地NGOに配分され、3大感染症(エイズ・結核・マラリア)の撲滅対策、その中でも、特に武田薬品工業の関心が高かった保健医療人材の育成・強化に活用された[1]

対象国と対象疾病は、①現地からの支援ニーズが高い、②過去の事業実績が高く、支援効果が見込める、③グローバルファンドが扱うエイズ・結核・マラリアをカバーしている、という条件によって絞り込まれ、協議の結果、以下の3つのプログラムに対する支援が決まった。

1. タンザニア:マラリア対策(殺虫剤浸漬蚊帳の全国普及)
・蚊帳配布システムの強化
・蚊帳使用の普及啓発を担う人材の育成

2. ナイジェリア:包括的エイズ治療・ケアの拡充
・患者・遺児支援を行うNPO・住民組織の研修
・差別偏見をなくす啓発活動の強化

3. セネガル:結核対策強化
・診断・治療に携わる医師・技師の育成

グローバル企業のあるべき振る舞い

「タケダ・イニシアティブ」を開始した2010年当時、私自身は、2つの問いを立てながらサステナビリティ経営の推進業務にあたっていた。1つめの問いは、「グローバル企業は社会に対してどのような振る舞いをすることで持続可能性を高められるのか」であった。その答えを見つけるために、世界のサステナビリティ先進企業で構成される以下のルールメイキング・コミュニティに参加し、その振る舞い方を学ぶことにした[2]

・2011年1月:国連グローバル・コンパクト(UNGC)LEADプログラムへの参加(発足と同時)
・2011年7月:国際統合報告協議会(IIRC)パイロット・プログラムへの参加(発足と同時)[3]

LEADプログラムとは、UNGCの理念の実践・普及をリードする意志を持った企業等で構成されたプログラムであり、日本からは武田薬品工業、住友化学、富士ゼロックスの3社が参加した。LEADの定期会合では、サステナビリティ経営の推進に関する先進的なアプローチやポストMDGsに関する議論などが紹介された。特筆すべきは、統合報告ガイドラインの作成に向けたIIRCパイロット・プログラムの発足とメンバー募集の動きについて先行的に紹介されたことである。これに呼応する形で、武田薬品工業は加盟を表明し、その後、4回にわたるパイロット・プログラムの年次会合のすべてに現地参加し、2006年からの自社の統合報告の制作経験をインプットすることでガイドラインの策定プロセスに積極的に関わった[4]。このような経験を通じて、多くのサステナビリティ先進企業は、①世界共通のコンセプトやルールに代表される「国際公共財」作りに労力を惜しまず貢献する「寛大なリソース提供者」として振る舞いながら、②その一方で、自社の都合を勘案しながらルールメイキング・プロセスに影響を与え、③ルールの最終形をイメージしながら社内体制を整え、④必要に応じて、主導したいコレクティブ・アクションを実現するためにパートナー探しをしている、ことなどを学んだ。

左より、2011アムステルダム会議、2012ロンドン会議、2013フランクフルト会議、2014マドリッド会議(筆者撮影)

グローバル製薬企業としての「保健医療アクセス」への対応

2つめは、より自社に引きつけた問いであり、グローバル社会が製薬企業に求める「保健医療アクセスの本質とは何か」であり、その答えを求めるためにオランダ・ハーレムにある「総本山」に向かった。

・2011年10月:Access to Medicine Index(ATM Index)を公表するATM財団を訪問

ATM財団はWim Leereveld氏が2003年に設立し、2008年から2年に1度、製薬企業の取り組みをランキング形式で公表している。理にかなった調査方法や、イギリス政府、オランダ政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団からの拠出金による財団運営などを知り、「政府とNGOが製薬企業の医薬品アクセス行動を促し、製薬企業は患者に向き合う公共性と製品開発に必要な収益性のバランス[5]をとりながら持続可能性を強化する」という構図が見えてきた。Leereveld氏からは「2010年の貴社の順位は18位ですね」とニヤリと指摘され、下位を占める日本企業に対する財団のPRも依頼された。帰国後、日本製薬工業協会の国際委員会の場でも「保健医療アクセス」を議題として取り上げ、同じ問題に直面している日本の同業他社とも議論を深めた。

グローバルファンドの人的ネットワークを実感

グローバルファンドは、世界約80か国の公的資金や民間財団の助成金によって支えられ、影響力のある医療関係者とのネットワークがある。2008年のシェブロン社に次いで、2010年に世界で2番目にグローバルファンドに寄付をした企業ということで、グローバルヘルス関連の国際会議への参加機会が格段に増え、国連職員・研究者・NGO代表など多様な関係者とのネットワークも着実に広がった。プロジェクトの実施地域であるタンザニア・ダルエスサラームを訪問した際には、病院内で医療関係者とのステークホルダー・ダイアログも実施され、その模様は外務省「外交青書2013」に掲載された。

外交青書2013(中央に筆者)   FGFJレポート(2014.6)(中央に筆者)

「タケダ・イニシアティブ」開始から2年後の2012年、武田薬品工業はワクチンビジネス部を設置した。このプログラムは単なる社会貢献にとどまらず、将来のビジネス基盤の強化につながる戦略的な企業市民活動であったと評価している。

 

今回の問い

NGO/NPOが持つ「グローバルなネットワーク」について、企業のサステナビリティ担当者として特に力を感じた場面や、逆にもっと活かせたのではと感じた場面はどのようなときだろうか。

いかがでしたでしょうか。金田さんは今回、NGOの「グローバルなネットワーク力」の重要性について論じていますが、さて、翻って、企業側にもそのネットワークを受け止め、社内外に活かす力が問われるのではないでしょうか。皆さんの現場の声をぜひお聞かせください。

本連載は、皆様からの「声」で完成します。「自分たちの現場ではこうしている」「逆に企業にこうしてほしい」 そんな皆様のアンサー(知見)をぜひお寄せください。

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参考文献・注:[1] 社会貢献によるビジネス・イノベーション「CSR」を超えて(2012)丸善出版社 第3章 ビジネスと社会貢献の近接と統合(金田)P.74‐75参照

[2] 同上のP.73参照

[3] 統合報告の制度と実務 経済経営研究 Vol35 No1.(2014.7)日本政策投資銀行設備投資研究所 第8章「指導原則」の解釈と実践~武田薬品工業のケース~(金田)P.135-145 DBJ_EconomicsToday_35_01.pdf参照

[4] 【レポーティング】統合報告による企業情報開示の変革 〜武田薬品工業社の成功事例〜 | Sustainable Japan参照

[5] 「患者に向き合う公共性と製品開発に必要な収益性のバランス」を考えるきっかけとなったのは南アフリカにおける「特許かいのちか」を巡る訴訟問題であった。薬品企業、南ア・エイズコピー薬訴訟取り下げ – SWI swissinfo.ch参照

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