未来はいつだって、
妄想からはじまる。
and Beyond Company

COLUMN
2026.04.29

【シリーズ:「共創」という楽器の鳴らし方vol.5】企業サステナビリティ担当者と共振する10のチューニング・ガイド:⑤中間支援NPOの伴走力

立場や組織の垣根を超えて「共創」を進めたいと願っても、組織を代表する以上、私たちはそれぞれの論理や限界という「硬い壁」に直面します。 しかし、この壁の中で孤独に戦う必要はありません。「熱意やナレッジの交換」というつながりの力でその壁を「響かせる」ことができれば、挑戦と応援のエコシステムはより豊かになっていくはずです。

今回、こうした「壁を響かせる実践知」を皆様とシェアする新連載【シリーズ:「共創」という楽器の鳴らし方】を企画しました。これは一方通行の情報発信ではありません。受け取った皆様からの現場のリアルな「アンサー(知見)」を募集し、次の連載者へとバトンをつなぐ「知のペイフォワード・リレー」を目指します。

本連載のトップバッターとして新aBCフェローの金田晃一さんを迎え、現職のNTTデータグループのほか、ソニーや武田薬品工業など5社・26年にわたる実践知から、企業担当者とNGOが「共振」するための10の作法(チューニング・ガイド)を紐解きます。

第5回のテーマは、NGO担当者に求められる「中間支援NPOの伴走力」について。武田薬品工業と市民社会創造ファンドとの協働経験から紐解きます。

【筆者略歴】金田 晃一さん(多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員/aBCフェロー)

ソニー渉外部通商政策課、在京米国大使館経済部通商政策担当、ブルームバーグテレビジョン・アナウンサーを経て、1999 年以降、ソニー(再入社)、大和証券グループ本社、武田薬品工業、ANAホールディングス、NTT データグループの5 社にてサステナビリティ経営を推進。日本経団連・社会貢献担当者懇談会座長、日本NPO センター理事、現在は、国際協力NGO センター(JANIC)理事、日本ソーシャル・イノベーション学会理事、多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員を務める。and Beyondカンパニーの1号フェロー。

国内版「保健医療アクセス」プログラム

2009年4月、武田薬品工業は中間支援NPOである市民社会創造ファンドとの協働を通じて、長期療養の子どもたちとその家族を支援するNPOに助成する「タケダ・ウェルビーイング・プログラム」を開始した。その目的は、①この分野で活動するNPOの(人件費、社会保障費支援などを通じた)組織基盤強化、また、②日本各地で活躍するNPOのネットワーク作りを通じた社会インパクトの創出にあった。特に、後者に関しては、市民社会創造ファンドから「本気で社会インパクトを出すには5年間の継続支援は必要」とアドバイスを受け、結果的には2期10年間の助成プログラムに発展した。

入社した2008年10月当時、武田薬品工業はビジネスのグローバル化に積極的に取り組んでおり、それをサステナブルな形で実現するためには、本業はもとより、人権・環境・コンプライアンス分野におけるCSR活動や企業市民活動に関するグローバル化も同時に進めていく必要があると認識していた[1]。特に、グローバル製薬企業に対しては、国際社会から、社会的に弱い立場にある人々に向けた「医薬品を含む保健医療へのアクセス向上」活動に対する要請が強かった[2]。そこで、企業市民活動については、それまで中心的な役割を果たしてきた企業財団を通じた研究助成プログラムに追加する形で、まずは、新たな”国内向けの旗艦プログラム”を立ち上げ、次に、発展途上国を対象とした”グローバルな旗艦プログラム”を立ち上げる、という計画を立て実践した。「タケダ・ウェルビーイング・プログラム」は、国内向けの旗艦プログラムを具現化したものであった。

長期療養を余儀なくされている子どもたちには、成人の患者とは異なる特別なサポートが必要とされている。例えば、治療のつらさに耐えなければならないだけでなく、学校に行けない、友だちと遊べない、病室から出られない、などの問題に直面している。また、その家族は、子どもとの面会や短期外泊のために必要な宿泊施設の確保や費用の問題、さらには(このプログラムに関わることで私自身も初めて知ったが)子どもの兄弟姉妹のネグレクト問題などを抱えていた。これらの問題の解決には行政によるサポートだけでは決して十分とは言えない。市民社会創造ファンドからの説明を聞き、長期療養の子どもたちとその家族が抱える問題は、「いのちに関わる製薬企業」が企業市民として取り組むべき課題であると理解した[3]

計画型助成とは

一般的に、企業が助成プログラムを始める際には「公募型助成」方式を採る。企業の冠プログラムとして、広域に、あるいは、日本全国に募集を掛けることで、企業の知名度を上げることができる、また、社内の選考委員会を経て「公正に助成先を決めた」と社会に説明できるなどのメリットがある。しかし、市民社会創造ファンドからは、長期療養を余儀なくされる子どもたちとその家族を支える現場のNPOに寄り添いながら伴走し、計画的に組織基盤強化に向けて支援する「計画型助成」方式にチャレンジしてはどうかとの提案があった。当時は、病気の子どもを持つ親同士が中心になって手弁当で活動する、いわゆる「当事者NPO」による活動が多かったこともあり、そのようなNPOは目の前の活動で手一杯になり、NPO自体の活動基盤の強化策や将来的な発展計画などを考える余裕がないという構造的な問題を抱えていた。社内の寄付委員会の役員に対してこのプログラムを説明する際には、「これはNPOの皆さんに”一息ついてもらう”ための仕組みです」と説明したことを覚えている。

具体的には、支援する市民社会創造ファンドと武田薬品工業が、2人の専門家(小児医療関係者、経団連の社会貢献スペシャリスト)と協議しながら、「(社会課題解決に向けて)このNPOには強くなってもらいたい」と考えるNPO候補を選び、「貴団体を支援する用意があります、3年間かけて組織基盤を強くしていきましょう」と声を掛け、合意の下で、きめ細かく伴走支援をする。逆に言えば、支援を受けるNPOは、ある意味、”懐に入られること”を納得した上で、代表の考え方、財政状況、組織基盤の現状、将来の成長計画などを含む団体の各種情報をドナー側に開示することになる。

このように、市民社会創造ファンドは、個々のNPOに寄り添い、代表やスタッフの悩みを聞き、活動の質の向上に向けてアドバイスをし、必要に応じて武田薬品工業に当初の支援計画の変更や追加支援について相談する。他方、武田薬品工業としても、課題の社会への発信やNPO同士のネットワーキングのための社内外のイベントを開催する、労働組合を通じて社員の本プログラムへの関わりを促すなど、プログラムを通じて企業なりに伴走した。結果的に10年間で26団体、8,640万円への支援を実施した。これら伴走の記録と助成金等の各種データは、以下からダウンロードできる。

1期(2009-2013              2期(2014-2018

「ウェルビーイング」再考

最後に「タケダ・ウェルビーイング・プログラム」のネーミングにある「ウェルビーイング」についても触れておきたい。武田薬品工業は、月刊誌ソトコトの編集部のサポートを得て、2010年12月号別冊付録である「チビコト」を制作したが、12月号の「チビコト」のタイトルを「Social Well-Being〜人と社会のイイ状態〜」とした。”人と社会のイイ関係”を創るために医薬事業が果たしている役割について、武田薬品工業のR&D活動から企業市民活動までのいくつかを実例として取り上げ、現場取材を通じて記事化したものだ。

コンテンツ制作にあたって、「市民社会創造ファンド」、「日本国際交流センター」、「日本フォスタープラン協会(現プラン・インターナショナル・ジャパン)」の代表者による座談会を企画した。私は座談会の司会・進行を担当し、各代表にウェルビーイングに関する考え方やウェルビーイング創出に向けた企業への期待について語っていただいた。その中には、以下のようなコメントがあった。

「人が生きていくために必要な福祉がウェルフェア(welfare)で、これは主に政府が責任をもって担うもの。ウェルビーイング(well-being)はもう少し広い概念で、一人ひとりのより豊かな心身の状態。これを支えているのがNPOや企業といえるでしょう」

「ウェルビーイングは、一人ひとりの中に生きることの充足感、満足感がある状態。国や文化によって異なり、一律の基準では測れない。多様なウェルビーイングに対応できる仕組み作りに企業が果たす役割は大きい」

「生存の権利への保証である『人間の安全保障』がウェルビーイングの前提。この問題に『企業市民』の意識を持って、企業はもっと関われるのではないか」

2026年の現在、サステナビリティ経営、特に人的資本経営の文脈で、日本にもウェルビーイング・ブームが来ている。16年前に制作した「チビコト」を読み返し、企業が本業や企業市民活動を通じて「ウェルビーイング」に取り組む意義をあらためて確認した。

 

今回の問い

中間支援NPOが企業と現場NPOの間に立って「計画型助成」を実現するとき、企業のサステナビリティ担当者として中間支援NPOに期待することや、逆に難しさを感じた場面はどのようなときだろうか。

いかがでしたでしょうか。金田さんは今回、中間支援NPOの「伴走力」の重要性について論じていますが、さて、翻って、企業側にも現場NPOの実態を理解し、長期的な視点で関わり続ける姿勢が問われるのではないでしょうか。皆さんの現場の声をぜひお聞かせください。

本連載は、皆様からの「声」で完成します。「自分たちの現場ではこうしている」「逆に企業にこうしてほしい」 そんな皆様のアンサー(知見)をぜひお寄せください。

▼回答はこちらから

Googleフォーム

参考文献・注:[1] 「06-10中期経営計画」にて「世界的製薬企業の創生」を掲げ、2009年度の有価証券報告書にも「事業を取り巻く環境の変化に柔軟に対応し、当社の目指すべき姿の実現に取り組んでまいります」との記述がある。

[2] 医薬品を含む保健医療アクセス問題については、本シリーズvol.6およびvol.7で詳述する。

[3] 社会貢献によるビジネス・イノベーション「CSRを超えて」(2012)丸善出版社 第3章 ビジネスと社会貢献の近接と統合(金田)P.75‐76参照

SHARE

CONTACT

and Beyond Company
パートナーシップについて、
フォームより
お気軽にお問合せください。

個人の方はこちら