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COLUMN
2026.05.19

【シリーズ:「共創」という楽器の鳴らし方vol.6】企業サステナビリティ担当者と共振する10のチューニング・ガイド:⑥インパクトの可視化力

立場や組織の垣根を超えて「共創」を進めたいと願っても、組織を代表する以上、私たちはそれぞれの論理や限界という「硬い壁」に直面します。 しかし、この壁の中で孤独に戦う必要はありません。「熱意やナレッジの交換」というつながりの力でその壁を「響かせる」ことができれば、挑戦と応援のエコシステムはより豊かになっていくはずです。

今回、こうした「壁を響かせる実践知」を皆様とシェアする新連載【シリーズ:「共創」という楽器の鳴らし方】を企画しました。これは一方通行の情報発信ではありません。受け取った皆様からの現場のリアルな「アンサー(知見)」を募集し、次の連載者へとバトンをつなぐ「知のペイフォワード・リレー」を目指します。

本連載のトップバッターとして新aBCフェローの金田晃一さんを迎え、現職のNTTデータグループのほか、ソニーや武田薬品工業など5社・26年にわたる実践知から、企業担当者とNGOが「共振」するための10の作法(チューニング・ガイド)を紐解きます。

第6回のテーマは、NGO担当者に求められる「インパクトの可視化力」について。武田薬品工業と日本フォスター・プラン協会(現プラン・インターナショナル・ジャパン)との協働経験から紐解きます。

【筆者略歴】金田 晃一さん(多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員/aBCフェロー)

ソニー渉外部通商政策課、在京米国大使館経済部通商政策担当、ブルームバーグテレビジョン・アナウンサーを経て、1999 年以降、ソニー(再入社)、大和証券グループ本社、武田薬品工業、ANAホールディングス、NTT データグループの5 社にてサステナビリティ経営を推進。日本経団連・社会貢献担当者懇談会座長、日本NPO センター理事、現在は、国際協力NGO センター(JANIC)理事、日本ソーシャル・イノベーション学会理事、多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員を務める。and Beyondカンパニーの1号フェロー。

海外版「保健医療アクセス」プログラム

2009年8月、武田薬品工業は、製薬企業が直面する「医薬品を含む保健医療アクセス」課題への対応要請を背景に、「保健医療アクセス」の名称(とパートナーである日本フォスター・プラン協会、現プラン・インターナショナル・ジャパンの名称)をプログラム名に冠した「タケダ-Plan保健医療アクセスプログラム」を開始した。アジア各国の子どもたちが直面している多様な保健医療課題、具体的には、「屋外排泄習慣による下痢」、「栄養価の低い給食による成長不良」、「離島の医療サービス欠如による生命の危機」、「知識不足によるHIV/エイズ罹患」に対応したプログラムである。

武田薬品工業は、その3か月前の2009年5月に、約3年越しの検討期間を経て、国連グローバル・コンパクト(UNGC)への加盟を果たしている[1]。本プログラムは、UNGCの精神に則り、ミレニアム開発目標(MDGs)達成への貢献をめざした具体的なアクションであり、企業市民活動の海外版旗艦プログラム第1号案件であった[2]

「意気に感じる」と人は動く

本プログラムに関しては、私自身、その策定プロセスから様々なことを学んだ。そこで、大まかなプロセスと、ごく一部ではあるが、学びのポイントについて紹介したい[3]

1.まずは、パートナー候補となるNGOを絞り込むために、以下の条件を整理した。

①活動分野として保健医療が明示されているNGO
②事業拠点があるインドネシア、タイ、フィリピン、中国で活動実績を持つNGO
③日本の拠点から4か国の活動に対してガバナンスを効かせられるNGO
④5年後に、4か国毎のインパクト報告書を提出できるNGO
その後、これらに沿ったデスクトップ調査を通じて、3つのNGO候補を選んだ。

2.次に、2009年3月上旬に、その3つのNGOの東京オフィスを直接訪問し、”その場”で、支援に関わる以下の支援フレームを提示した。

⑤支援目的(保健医療アクセスの向上)
⑥寄付金額(年間1,000万円)
⑦実施期間(5年間)
⑧活動地域(上記4か国)

また、企業として獲得したい主なメリットについても、以下の通り明示した。

⑨グローバル企業としてのレピュテーション向上
⑩4か国で働く現地社員のモチベーション向上[4]

さらに、細かい点ではあるが、ボタンの掛け違いが無いように以下の注意点も明示した。

⑪寄付金には、インパクト報告書の制作費が含まれること
⑫寄付金には、当社スタッフによる現場訪問にかかるアテンド費用が含まれること

3.3つのNGOのうち、唯一、協議の継続に合意したNGOが日本フォスター・プラン協会であった。2週間後には、4か国のプラン・インターナショナルの現地オフィスが実施する保健医療分野の子ども支援パッケージ案が、現地オフィス毎に2〜4つ、比較可能な共通フォーマットで提示された。このような「あとは企業が選ぶだけ」という提案の仕方に感心すると同時に、短期間でそのような提案ができる日本フォスター・プラン協会とアジア4か国のプラン・インターナショナルの現地オフィスとのコミュニケーションの良さに「クオリティの高いインパクト報告書が期待できる」と感じた。

4.結果的には、4か国毎に1案件を選び出し、具体的な5年後の社会インパクトのイメージを共有し、バックキャスティングの手法を使い5年間の活動プログラム案を共創した。その後、6月上旬の社内の寄付委員会での承認を経て、寄付の覚書を作成し、協議開始から3か月足らずで実施に漕ぎつけた。

企業の側からNGOにお願いに行くわけなので、プログラムの前提条件(①②③④)、プログラムの助成フレーム(⑤⑥⑦⑧)、プログラムを通じて企業が得たいメリット(⑨⑩)、プログラムの周辺コスト(⑪⑫)については最初からクリアにしておいて、協議初日に提示した。実はそれが、その後の3か月間の「共振」状態を創り出せたきっかけのひとつだったのかもしれない。「そっちがそのスピード感と完成度で提案してくれるなら、こっちも役員説明の日程を最短で押さえにいこう」「そっちがそこまで考えてくれるなら、こっちもここまでは企業としてコミットできるように次の協議までに社内コンセンサスを得ておこう」というグルーブ(groove)が渦巻く感覚があった。「共振」とは、まず、双方の協議担当者が「意気に感じる」ことから生まれるものだと思う[5]

「アンブレラ・コンセプト」で個別プログラムに意味を持たせる

現地プログラムの概要を以下にまとめる[6]。インドネシア、中国、タイについては、子どもたちをとりまく地域住民、親、教師などのポジティブな行動変容が子どもたちの保健医療アクセスを高めるプログラム、中国とフィリピンについては、直接、医療サービスや食材を提供することによって子どもたちの保健医療アクセスを高めるプログラム、と整理できる。「保健医療」というアンブレラ(共通の傘)の下に、各国各様のニーズがぶら下がる構図である。

【インドネシア】貧しい地域によっては、公共にも家庭内にもトイレが設置されていないケースがあり、住民の屋外排泄によって水資源が汚染され、子どもたちは下痢の問題を抱え、時には命を落とすこともあった。そこでトイレの建設を含めた衛生管理の重要性について住民に対して啓発活動を進めた。

【中国】子どもたちの栄養失調や発育不良が問題になっている地域があり、これらの問題に対して、教師や父母の理解を進める啓発活動、並びに、学校給食の現場に対しては、栄養価の高い食材提供の支援を実施した。

【フィリピン】離島では、貧困などの理由から保健医療にアクセスできない子どもたちに対して、医療サービスの提供を支援した。

【タイ】ある地域ではHIV/エイズの問題が深刻さを増しており、思春期の子どもたちへの適切な性教育の実施が喫緊の課題であった。そこで、子どもたちを教育する教師の意識改革に向けた支援活動を展開した。

出典:内閣府 第4回「新しい公共」円卓会議 金田委員提出資料

インパクト開示の先駆け

当時、私は経団連の社会貢献担当者懇談会の座長を務めていたが、寄付については、まだ「寄付行為(インプット)をして終わり」の風潮が強かった。確かに、寄付行為自体は尊く、さらに、その金額が大きければ大きな成果が出る可能性は高まる。しかし、それはあくまでも想像に過ぎず、実際にどれだけの社会的に弱い立場にいる人々の生活や能力が変わり、暮らしやすい社会に変わったか、というところまで「観察」「計測」「開示」する企業はほぼ見受けられなかった。そこで、座長会社として「隗より始めよ」ということで、「タケダ-Plan保健医療アクセスプログラム」では、当時まだ珍しいロジックモデル(インプット・アウトプット・アウトカム・インパクト)を活用したインパクトの可視化を試みた。先に記したように、協議の当日の段階からインパクト報告書の作成を協働の条件として伝えていたことから、プラン・インターナショナルの各国オフィスは、日本フォスター・プラン協会からのガイダンスのもと初年度から活動記録をデータで残し、プログラム修了の5年後には、武田薬品工業のAnnual Report 2015 CSR Data Book上でインパクト情報までを含んだ活動記録のサマリーの開示に漕ぎつけた。

インパクトに関しては、様々な可視化パターンがあるが、本プロジェクトによる5年間のインパクト報告書を分析すると以下のようなパターンが見い出せる。

①活動が他の自治体に広がる
②活動を促進するための法令が自治体によって作られる
③活動が自治体の予算で実施される
④活動がモデル化されて各家庭で実施される
⑤活動の意義を市民が理解し行動変容する
⑥活動を促す教育ツールが開発される

私自身は、1994年から5年間、プライベートの時間を使って、国際開発高等教育機構(FASID、現在の国際教育機構)主催の「リーダーシップ・アカデミー」、「PCM研修」、「開発と企業コース」、国際開発センター(IDCJ)の「工業開発トレーニングコース」、海外コンサルティング企業協会(ECFA、現在の海外コンサルタンツ協会)の「国際開発金融機関専門職短期研修プログラム」などを受講する中で、JICAによるODAプロジェクトのインパクト評価について学んでいた。インパクト報告書を作成する際には、日本フォスター・プラン協会のプログラムオフィサーと議論しながら、「これはインパクトでなくアウトカムではないか(またはその逆)」などと議論したことを覚えている。

 

今回の問い

NGO/NPOと協働する際、「インパクトの可視化」について企業のサステナビリティ担当者として感じた期待や難しさは、どのような場面だっただろうか。

いかがでしたでしょうか。金田さんは今回、NGOの「インパクトの可視化力」の重要性について論じていますが、さて、翻って、企業側にもインパクトを引き出し、社内外に伝える力が問われるのではないでしょうか。皆さんの現場の声をぜひお聞かせください。

本連載は、皆様からの「声」で完成します。「自分たちの現場ではこうしている」「逆に企業にこうしてほしい」 そんな皆様のアンサー(知見)をぜひお寄せください。

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参考文献・注:[1] 当時、国連グローバル・コンパクトへの加盟に対する日本企業の考えは、「10原則の遵守」と「現時点での自社のCSRパフォーマンス」を比較する中で、以下の2つに分かれていた。①現行のCSRパフォーマンスは、原則に謳われている状況からは程遠い。加盟すると国際社会から非難されてしまうので、ある程度パフォーマンスを上げてから加盟しよう。②現行のCSRパフォーマンスは、原則に謳われている状況からは程遠い。だからこそ、加盟することで原則に謳われている状況にCSRパフォーマンスを近づけることをコミットし、その姿勢を国際社会に示し、レピュテーションを高めよう、というものである。欧米企業が使うコミットメントという言葉の用法を理解するにつれ、日本企業も、①から②に考え方と行動を変えてきたように思える。

[2] 国内版旗艦プログラムの第1号は「タケダ・ウェルビーイング・プログラム」。Vol.5参照。

[3] 「グローバル企業は途上国の社会課題にどう取り組んでいるか?」CSOネットワーク(2024.12.24発行)武田薬品工業のケースP.17-18を参照

[4] 本社として、グループ会社の所在国や地域が抱える保健医療アクセス課題を忘れていないことを具体的な企業市民活動で示すことは重要。

[5] 本コラムシリーズのvol.3で取り上げた「大和証券グループ津波復興基金」の場合、当時の社長の言葉を「意気に感じて」策定にとりかかったが、「タケダ-Plan保健医療アクセスプログラム」の場合は、日本フォスター・プラン協会の誠実な対応を「意気に感じて」プログラムの策定にとりかかった。

[6] 「インプットからインパクトまで-保健医療に重点を置いた企業市民活動」(金田)月刊グローバル経営(2013年7/8月号)P.14-15を参照

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